チャットボットの進化
ロボットと話をするという発想は馬鹿げていて、SF小説の世界のように思えるかもしれませんが、じつのところ、おそらくみなさんはすでにロボットとの会話に時間を費やしています。人工知能(AI)の進化と実用化により、わたしたちはそれを取り入れた様々なテクノロジーを日常的に利用しており、広義のロボットはあらゆるところに存在しています。「チャットボット」も、その一例です。チャットボットとは、”チャット”と “ロボット”を組み合わせた言葉で、人間と会話をするために設計されたある種のロボットです。チャットボットはいまや、わたしたちの身の回り、どこにでもにあります。大企業のカスタマーサービスにオンラインで問い合わせたことがある人は、おそらくチャットボットと会話しているのではないでしょうか。しかし、チャットボットは当初から現在ほど洗練されていたわけではありません。1950年代に最初のチャットボットが発明されて以来、時とともに大きく進歩してきたのです。この記事では、チャットボットの進化と、現在わたしたちが折々に接するチャットボットの特徴について見ていきます。
チャットボットとは?
チャットボットとは、簡単に言えば、会話形式で人間に応答できるプログラムや機械のことです。ロボットの形をしたものもありますが、多くはソフトウェア・プログラムで、ウェブサイトやその他のインターフェース上でコンピューターを介して人と対話するようになっています。チャットボットには、テキストベースのものと音声ベースのものがあります。
チャットボットを会話型AIと混同すべきではありませんが、この2つには密接な関係があります。会話型AIは、自然言語処理(NLP)により人の発話内容を記憶し、幅広いインプットへの応答を学習します。NLPは、いわばチャットボットを動かす根幹技術のひとつなのです。ただし、すべてのチャットボットが会話型AIを導入しているわけではありません。 チャットボットのなかには、ルールベースやフローベースのプログラムになっているものもあり、限定的な範囲のインプットにのみ対応し、決まった返答しかできないものもあります。
チャットボットの歴史:草創期から
チャットボットというと、多くの人がインスタントメッセージやコンピューターを連想するため、ごく最近の発明と思われがちです。しかし、じつはそれよりずっと以前から存在しました。世界初のチャットボットは、1966年にマサチューセッツ工科大学(MIT)のジョセフ・ワイゼンバウム博士が制作した「 」という名前のものです。ELIZAは、パターンマッチングと特定の語句への置換という方法で人がテキスト入力した質問に対する回答を導き出しました。ELIZAのスクリプトはある心理療法士を模しており、対象者が秘密や秘めた感情をプログラムに打ち明けるのを見て、博士はすぐにチャットボットの力を理解しました。
プログラマーたちは、ワイゼンバウムのELIZAをもとに、その後数十年にわたり、より高度な機能を持つチャットボットを開発していきました。チャットボットは自動電話システムの基礎となり、広く一般に知られるようになりました。チャットボット開発における次の大きなブレークスルーは、1995 年制作の「ALICE」です。ALICEは自然言語処理が可能で、人間のリアルな会話を模倣することができました。しかし、真に革命的だったのはALICEがオープンソース化されたことです。ほかのプログラマーもALICEを使って独自のチャットボットを作ることが可能となり、チャットボットの世界が急速に進歩を遂げていったのです。2001年に登場した「Smarterchild」は、MSNとAOLのチャットプログラムで利用可能でした。Smarterchildを、現在人気の高いAppleのAIチャットボット「Siri」の先駆けと捉える人は多いでしょう。Smarterchildは、軽妙な会話やデータサービスへの素速いアクセスを実現し、チャットボットの担える範囲を広げていきました。
チャットボットの歴史:現在
AIの導入とチャットボットのオープンソース開発により、迅速な改良と普及が進みました。チャットボットは現在、世界中の企業でパーソナルアシスタントや顧客サービスアシスタントとして日常的に利用されています。AppleのSiri、サムスンのBixby、MicrosoftのCortana、GoogleのGoogleアシスタント、AmazonのAlexaはすべて、パーソナルアシスタントとして扱われるチャットボットです。音声コマンドに反応し、メールやカレンダー、ホームセキュリティシステムなどを制御することができます。しかし、こうしたチャットボットはどれも完璧なわけではありません。Siriは、異なったアクセントへの対応が苦手で、動作させるにはインターネット接続が必要です。AlexaとGoogleアシスタントにおいては、ともにプライバシーに関する懸念が生まれています。Cortanaにはマルウェアへの脆弱性が指摘されました。しかし、こうした欠点はあるものの、チャットボットは、今日のわたしたちの生活にとって欠かせない存在になっています。
チャットボットはビジネスや教育の世界にも進出しています。2016年頃から、AI技術の発展により、カスタマーサービス用のチャットボットがビジネスプラットフォームで広く採用されるようになりました。また、ブランドやサービスに特化したソーシャルメディアプラットフォーム上のチャットボットも開発されるようになりました。現在では、多くのサイトでボットを利用して顧客からの一般的な質問に答えたり、単純な問題を解決したりするチャット機能が提供されています。
チャットボットにできることはそれだけではありません。特に新型コロナウイルスの大流行により、世界中の多くの学生が自宅から勉強するようになったことで、チャットボットは教育現場でも頻繁に使用されるようになりました。学校によっては、保護者の質問に答えたり、スケジュールやカリキュラムなどの情報を共有したりするため、企業のカスタマーサービスのようにチャットボットを活用し始めているところもあるようです。教育現場におけるチャットボットの存在感は増していますが、教育行政の担当者たちは、ロボットに仕事を奪われる心配はないと主張します。すでに教育に携わる人材が不足していたため、普及が進んできているというのです。
チャットボットの未来
AIの開発が進むにつれて、チャットボットの性能も向上していくことが予想されます。近い将来、オンラインで話している相手がボットなのか、それとも本物の人間なのか、区別できなくなるかもしれません。自然言語処理とAIによって、当初の形態から大きく進化したチャットボットが、急速にわたしたちの日常生活の一部になりつつあります。チャットボットの時代が到来しているのです。