従業員採用におけるAIの役割
業務に適した能力を持つ人材を採用することは、いつの時代も難しいことです。インターネットの登場で、多くの求職者がこれまで以上に簡単に求人情報を目にして応募できるようになったため、企業側の採用活動は一面では簡単になり、同時に別の側面では困難になっています。候補者の幅が広がることは素晴らしいのですが、それに伴って人事部門の業務も過剰になります。そこで活躍するのが人工知能、AIです。AIは企業の大小を問わず、求職者を選別し、職務に最適な候補者を見つける上で役立ちます。しかし他のツールと同様、採用におけるAIの活用には欠点もあります。AIは、求人に対する応募や採用をどのように変えているのでしょうか。
採用の現場でのAIの活用
テクノロジーとインターネットの普及は、多くの企業の採用活動を刷新しましたが、AIの導入もその延長線上にあります。1990年代、多くの企業がオンラインでの存在感を示し、ウェブ採用を行うようになりました。そして募集や選考から候補者育成まで、採用プロセスのあらゆるステップがオンラインで行われるようになりました。この流れに新たな一石を投じるのがAIです。2018年のLinkedInのレポートは、AIが採用プロセスを再構築する最大の要因の1つであると強調しています。
これは、現在の採用プロセスにAIがどのように組み込まれているかを見れば納得がいきます。AIツールは、候補者が履歴書を掲載する求人サイトから情報を抽出(スクレイピング)して優秀な潜在候補者を特定し、場合によっては直接応募するように勧誘します。企業が求める人材とプロフィールの合致する候補者とつながるために、チャットボットが使われることも少なくありません。AIは候補者選考のプロセスにも活用され、履歴書のキーワードを自動的に認識し、採用担当者が短い時間で候補者を選別できるようにします。より専門的な知識を必要とする職種では、スキルの採点と評価にもAIが活用されます。またAIはビデオ面接の評価にも活用されています。顔認識と表情分析で、AIが候補者をランク付けし、その性格特性を評価するのです。採用プロセスのこれらのステップでAIを活用することで、企業とその採用担当者は、自動化による時間とコストの大幅な削減の恩恵を受けられるのです。
AIを使った採用の落とし穴
採用プロセスにおけるAI活用を推進する人々は、そのメリットを強調します。例えば、担当者が大量の履歴書や応募書類をさばく上での効率性などです。数回のクリックで誰でも応募できるため、多くの採用担当者が膨大な候補者からの履歴書に圧倒されているのが現状ですが、AIを導入すればキーワード分析やその他の高度な解析手法で、適格な候補者とそうでない候補者を分類し、大多数の応募者をふるいにかけられるようになります。
AI推進派は、AIが採用プロセスから人間のバイアスを取り除き、候補者の多様性を高めると主張します。しかし、これには反対意見も少なくありません。AIのアルゴリズム自体、参照するデータに依拠するため、データに偏りがあれば、その判断もおのずとバイアスの掛かったものになるという意見です。実際、採用プロセスにおけるバイアスを増加させるか、少なくともバイアスを引き継いでしまっているアルゴリズムも報告されています。一例は、Amazonがテストしたツールで、このAIは男性の候補者を優遇するように偏っていました。AIに過去10年の間に同社に提出された履歴書から学習させたのですが、履歴書のほとんどが男性のものだったためです。他の採用ツールでも、同様の問題が疑われたり確認されたりしたものがあります。また、表情を分析するビデオ面接分析ツールに関しては、特定の種類の障害を持つ人に対してバイアスがあると非難されています。さらに、AIに捉えられやすいキーワードを使用していない人材や、AIが想定する様式で履歴書をフォーマットしていない人材は、優秀であっても最初の段階でふるい落とされることがあります。
AIによる応募の拡大
採用プロセスにおけるAIの役割は選考の補助にとどまりません。採用する企業側が求職者を惹きつけるため、そして求職者側が応募書類や履歴書を作成するためにもAIが利用されるようになっています。文法やスペルのチェックなど、さまざまな機能を持つAIライティングツールは、採用担当者と求職者の双方にとって便利です。採用担当者側では、求人広告の文章を自動添削する などのツールが、多様な背景を持つ候補者にアピールできる求人広告の作成する際に使われています。業界用語や専門用語が多すぎる求人広告は、そうでない広告に比べて応募者を集めるのに苦労するという調査結果もあり、そうしたデータも踏まえたより適切な文面を作成できるのです。
応募者側でのAIツールの活用
応募者の側でも、AIツールを活用することで明確で簡潔、かつ間違いのない履歴書を作成することができます。例えばTrinkaは、シンプルなインターフェイスのブラウザツールで、英文の修正案を提示してくれるため、英語で応募する人にとっては強い味方です。リアルタイムで文法をチェックし、学術的、技術的な用語のミスの修正や、より適切な言葉づかいの提案も瞬時に行なってくれます。企業側の応募者選考システムにアピールするような履歴書をフォーマットして作成するReziのようなツールもあります。履歴書に特定のキーワードを盛り込み、AIにアピールできるようにするのです。Skillroadsも同様のサービスで、質問に回答することで、自然言語処理によって履歴書を作成してくれます。
採用する企業側のAI活用が進む中、求職者側もツールを駆使しない手はありません。求職者がAI時代の採用に適応するためのツールや資料も増えてきています。上に挙げたようなツールを使い、採用担当者が提案するヒントも参考にすることで、多くの応募者の中で自分を際立たせることができるでしょう。採用担当者も、増加するツールを使いこなすことで、自社の業務に最適な人材をより効果的に選び出すことができるようになるでしょう。採用現場でのAI活用にはまだまだ課題があります。100%人の手で採用を決めていた時代と同じく、いまだバイアスは存在するものの、これからも採用現場ではAIが使われていくことは間違いなさそうです。